初心者向け特許出願方法(書類③特許請求の範囲(ロバート秋山さん変身特許を例に説明))

初心者向け特許の基礎知識
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初心者向け特許出願方法(書類③特許請求の範囲(ロバート秋山さん変身特許を例に説明))

 こんにちは。

 企業内弁理士のタクパパです。

 前回、前々回で知財部の仕事内容の一つである特許出願に必要な以下の5つの書類のうちの「①願書」、「②明細書」について説明しました。

①願書(がんしょ)

②明細書(めいさいしょ)

③特許請求の範囲(とっきょせいきゅうのはんい)

④図面(ずめん)

⑤要約書(ようやくしょ)

初心者向け特許出願方法(書類①願書作成(ロバート秋山さん特許を例に説明)
初心者向けの特許の基礎知識として、特許出願の願書の発明者、特許出願人、代理人についてロバート秋山さん「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願を例に説明します。
初心者向け特許出願方法(書類②明細書(ロバート秋山さん特許を例に説明))
特許出願の明細書の書き方をロバート秋山さん「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願を例に【発明の名称】や【技術分野】、【発明の概要】など具体的に説明します。

 今回も初心者向け特許出願方法の基礎知識として、ロバート秋山さんの「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願(特願2016-172346)を使わせていただいて「③特許請求の範囲」について説明します。

 この特願2016-172346の「③特許請求の範囲」は↓のとおりです。

秋山さん特許特許請求の範囲

 なお、↑の「③特許請求の範囲」は↓の特許庁のJ-PlatpatからPDFとして出力したもので、誰でもご確認頂くことが可能です。

j-platpat

特許出願の「③特許請求の範囲」とはどんな書類?

 「③特許請求の範囲」というのは、その名の通り、「この「③特許請求の範囲」に記載されている発明について特許をください!」と特許庁に特許を請求する範囲を示した書類です。

 なので、この「③特許請求の範囲」に記載されている内容こそが、その発明の内容であり、かつ特許になったときの特許の権利範囲を示すものということです。

 ですので「③特許請求の範囲」は極めて重要な書類であり、特許出願に必要な上記の5つの書類のうち、最も重要な書類ということができます。

特許出願の「③特許請求の範囲」と特許の財産的価値との関係

 同じ発明であっても、「③特許請求の範囲」に記載の仕方によって、良い特許になったり、悪い特許になったりするのが特許の面白いところです。

 極端にいえば、どんなにすばらしい発明をしたとしても「③特許請求の範囲」で変な書き方をしてしまうと、その特許にはなんの財産的価値もないという事態になりかねないということです。

 なので、専門家でない方がご自身の発明について、見よう見まねで「③特許請求の範囲」を記載することはできるとは思うのですが、残念ながら、使い物にならない特許となってしまう可能性が高いため、やめた方がいいですね。

 逆に弁理士はこの「③特許請求の範囲」を書けるからこそ飯が食えるといっても言い過ぎではないと思います。

 たとえばの話ですが、同じ発明について、↓の3人の方がそれぞれ「③特許請求の範囲」を書いたとして、仮に特許が成立したとしても、それぞれの特許にはこれだけの大きな財産的価値の差が生じ得るということです。

(1)素人の方が「③特許請求の範囲」を書いて成立した特許の財産的価値

→100万円

(2)そこそこの能力の弁理士が「③特許請求の範囲」を書いて成立した特許の財産的価値

→1000万円

(3)特許係争の経験があり、明細書作成能力も高い優秀な弁理士が「③特許請求の範囲」を書いて成立した特許の財産的価値

→1億円

 ↑の例はあくまでもイメージですが、書類の書き方で、これだけ財産的価値が変わってしまうような権利はおそらく他にはないのではないかなと思います。

 ある意味、特許というのは変わった権利だなと本当に感じます。

特許出願の「③特許請求の範囲」の【請求項】の書き方について

 上記したように「③特許請求の範囲」に記載されている内容こそが、その発明の内容なのですが、実は「③特許請求の範囲」という書類では、その発明の内容を分けて記載することが可能です。

 この発明の内容を分けて記載したものを【請求項】といいます。

 発明の内容の中で最も重要な内容については、【請求項1】で記載するようにして、【請求項1】の次に重要な内容を【請求項2】に記載し、さらに【請求項2】の次に重要な内容を【請求項3】に記載するといった具合です。

 また、【請求項2】の書き方として、「【請求項1】+α」という書き方の場合、【請求項2】のことを【請求項1】の従属請求項といいます。

 その通り、【請求項2】が【請求項1】に従属しているという意味ですね。

 逆に【請求項1】は、どの【請求項】にも従属していないので、独立請求項といいます。

ロバート秋山さんの特許出願の「③特許請求の範囲」の【請求項】について

 ここで、ロバート秋山さんの「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願(特願2016-172346)の「③特許請求の範囲」を見ていきましょう。

 そんなに長い文章ではないので、「③特許請求の範囲」の【請求項】を下記します。

【書類名】特許請求の範囲

【請求項1】

 プルオーバー型の上⾐の前⾝頃の裏地に⼈物、動物及びキャラクターのうちのいずれかの顔をかたどった像が前記上⾐の上下⽅向に対して倒⽴状態で設けられ、

 前記前⾝頃の表地に、前記像が有する⽬の位置を⽰す⽬印が設けられたことを特徴とする⼩道具。

【請求項2】

 前記像は絵⼜は写真から成ることを特徴とする請求項1に記載の⼩道具。

【請求項3】

 前記上⾐がTシャツ、トレーナー、スウェット及びセーターのうちのいずれかであることを特徴とする請求項1⼜は2に記載の⼩道具。

 【請求項2】が上記した「【請求項1】+α」という書き方なので、【請求項2】は【請求項1】の従属請求項であることが分かります。

 また【請求項3】は、「請求項1⼜は2に記載の⼩道具」という書き方をしていますよね。

 これは【請求項3】が【請求項1】または【請求項2】の従属請求項ということなのですが、さらに【請求項3】が2つの発明を含むことを意味します。

 つまり、「【請求項1】+【請求項3】」は【請求項3】に含まれる発明の一つですし、「【請求項1】+【請求項2】+【請求項3】」も【請求項3】に含まれる発明の一つということです。

【請求項1※独立請求項】の解説(ロバート秋山さん特許出願)

 まずロバート秋山さんの「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願(特願2016-172346)の「③特許請求の範囲」の【請求項1】について説明します。

 ただいくら短くても文章だけだと分かりにくいので、【請求項1】の発明の各構成に符号を付してみました。

 ここで、発明の各構成とは「上⾐(10)」、「前⾝頃(11)」とかのことです。

【請求項1】

 プルオーバー型の上⾐(10)の前⾝頃(11)の裏地(11B)に⼈物、動物及びキャラクターのうちのいずれかの顔をかたどった像(21)が前記上⾐(10)の上下⽅向に対して倒⽴状態で設けられ、

 前記前⾝頃(11)の表地(11A)に、前記像(21)が有する⽬の位置を⽰す⽬印(Mk)が設けられたことを特徴とする⼩道具。

 ↑の図面はロバート秋山さんの「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願(特願2016-172346)の図2、3、4で赤字は理解しやすくするために僕が付したものです。

 「③特許請求の範囲」(つまり請求項)の書き方は独特なので、これに慣れていない方は大変、読みにくいと思います。

 「③特許請求の範囲」に記載されている内容こそが、その発明の内容であり、かつ特許になったときの特許の権利範囲を示すものであるということを上記しましたね。

 なので、多少、回りくどくなっても、その発明がどのような内容であるのか、「③特許請求の範囲」を読めば分かるようにしないといけないため、「③特許請求の範囲」は、このようにごちゃごちゃと記載されることになるわけです。

 読めば分かるというのは、「③特許請求の範囲」を読めば、その発明の内容を示す絵が描けるようにしないといけないという意味です。

 さて、上記の【請求項1】の内容は理解できましたでしょうか。

 【請求項1】の内容をむちゃくちゃ簡単に言いますと、

 「裏地(11B)に人の顔の絵が印刷され、表地(11A)の人の顔の絵の目に対応するところに目印(Mk)が印刷されているTシャツ」

ということですね。

 ここで、なんで「表地(11A)」に「目印(Mk)」が必要なのでしょうか。

 「②明細書」の【0013】を読んでみるとその理由が分かります。

 つまり、このTシャツを着て芸をする芸人はTシャツをひっくり返す(※途中まで脱ぐ)ことで、「裏地(11B)」の「梅宮辰夫さん」(※像(21)の一例です)の顔を観客に見せるようにするわけです。

 そのときに、この「目印(Mk)」が自分(芸人)の目の位置になるまでTシャツをひっくり返せば、ちょうどその芸人の顔が「梅宮辰夫さん」に変わったように観客からは見えて面白いというわけですね。

 これがこの発明の効果(※発明の良い点)ということになります。

 ただこの内容については、「②明細書」の【発明の効果】(【0007】)には記載されていませんでしたが、記載してもよかったかもしれません。

【請求項2※従属請求項】の解説(ロバート秋山さん特許出願)

【請求項2】の内容は↓の通りです。

【請求項2】

前記像は絵⼜は写真から成ることを特徴とする請求項1に記載の⼩道具。

 上位の請求項であればあるほど(※請求項1が最上位)、発明の内容を広く記載するのが、【請求項】の書き方の基本となります。

 なので、【請求項1】では、単に「像」とだけ言っておいて、この「像」がどのようなものか限定していなかったわけですね。

 この【請求項1】の「像」を具体的にしたのが、【請求項2】というわけで、「像は絵⼜は写真から成る」ということを限定したということです。

 たとえば、ある芸人Aさんがこのロバート秋山さんの特許を回避するために、実際に「梅宮辰夫さん」の「お面」を作って、Tシャツの「裏地(11B)」にくっつけたものを販売したとしましょう。

 ただ、「お面」であっても「像」には違いないので、芸人AさんのTシャツは【請求項1】の範囲に含まれてしまうことになります。

 しかし、「お面」は「絵」でも「写真」でもないですよね。

 なので、芸人AさんのTシャツは【請求項2】の範囲に含まれないことになるため、【請求項1】の方が【請求項2】よりも発明の内容が広く記載されているということがご理解頂けますでしょうか。

【請求項3※従属請求項】の解説(ロバート秋山さん特許出願)

【請求項3】の内容は↓の通りです。

【請求項3】

 前記上⾐がTシャツ、トレーナー、スウェット及びセーターのうちのいずれかであることを特徴とする請求項1⼜は2に記載の⼩道具。

 これも【請求項2】と同じ話で、【請求項1】では、単に「上衣」とだけ言っておいて、この「上衣」がどのようなものか限定していなかったわけですね。

 なので、【請求項1】の「上衣」には「Yシャツ」だろうが、「パーカー」だろうが、含まれることになります。

 一方で【請求項2】では、「上⾐がTシャツ、トレーナー、スウェット及びセーターのうちのいずれか」と限定しているため、仮に芸人Aさんが「Yシャツ」の「裏地(11B)」に「梅宮辰夫さん」の絵を印刷して販売しても、【請求項2】には含まれないということですね。

本記事のまとめ

 以上、初心者向け特許出願方法の基礎知識として、長々と「③特許請求の範囲」について説明しましたが、いかがでしたでしょうか。

 ↑で上位の請求項であればあるほど(※請求項1が最上位)、発明の内容を広く記載するのが、【請求項】の書き方の基本となることは説明したものの、そんな書き方をする理由までは今回は書きませんでした。

 この理由については、また別の記事で書いてみたいと思いますね。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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