知財業界就職・転職希望者の必読書「経営における知的財産戦略事例集」特許庁

知財戦略
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知財業界就職・転職希望者の必読書「経営における知的財産戦略事例集」特許庁

出典: 特許庁

 企業内弁理士のタクパパです。

 2019年6月に発行なので、ちょっと前になりますが、特許庁が発行した「経営における知的財産戦略事例集」はご覧になりましたでしょうか?

 知財業界ですでに働いている方はもちろん知財業界への就職または転職を希望される方にとって必読書だと思ったので、ご紹介しておきますね。

https://www.jpo.go.jp/support/example/document/keiei_senryaku_2019/keiei_chizaisenryaku.pdf

 またこの「経営における知的財産戦略事例集」は経営戦略に資する優れた知財マネジメントの具体的手法を調査し、計50社以上の事例を取りまとめたもので、特に企業の経営にたずさわる人材(経営層、企画関係部署)を主な読者と想定しています。

 なので、知財関係者にとどまらず、特にスタートアップ企業やベンチャー企業の経営層の方も読まれたうえで自社の経営戦略策定に活かしていただくのが良いかと思います。

 ここでは僕が特に面白いなと思った企業について簡単に説明します。

三鷹光器(20年前、医療機器の後発企業)「経営における知的財産戦略事例集」7ページ

出典: 三鷹光器

 三鷹光器は20年前に脳神経外科の手術用顕微鏡市場に参入し、当時はドイツ大企業の独占市場であったのに、そこから米国市場シェアの50%を占めるまで成長した企業だそうです。

 ここでのポイントは三鷹光器が顧客(医者)の課題に着目し、これを解決する技術や製品の開発を行ったということです。

 要するにドイツ大企業は自分たちの技術に自信があったのか、

「お客様が欲しい製品はこれですね、我々はすべて分かっていますので、黙ってご購入ください。」

 と、まあくだけていえばこんな感じでビジネスをしていたということでしょう。

 いわゆるプロダクトアウトですね。

 これに対して、三鷹光器は顧客(医者)との対話を通じて顧客の課題をキャッチアップするだけではなく、医者が本当にほしくなるようなアイデアを製品に搭載するようにしたそうです。

 つまり今でいうマーケットインですね。

 特に医者との対話から生み出したアイデアなので、実際に使った医者から「高精度で使いやすい」との口コミが広がり、売上増加や高評価へとつながって市場のシェアを獲得することができたという事例です。

 この売上増加、シェアアップを図ることができた技術、製品を守るのが当然、知財(特に特許)ということです。

 ここで面白いなと思ったのは、顧客との対話を通じて顧客の課題をいち早く知るのは営業マンなのですが、三鷹光器では営業マンに

「たとえ良いアイデアをひらめいてもお客様に対して、その場で言うな」

と指示している点です。

 つまり、顧客の課題解決こそが三鷹光器にとって企業価値の源泉であり、これを適切に特許とすることで競争力を高めることができると考えているからですね。

 僕の企業でもそうですが、通常、営業マンが特許のことを考えていることはあまりないです。

 しかし、よく考えてみるとたしかにその通りだと思うため、営業マンの営業活動を起点とした特許戦略というのは実は大事なのかなと思いました。

ソニー(知財部の枠を超える)「経営における知的財産戦略事例集」9ページ

出典: SONY

 有名な話かもしれませんが、ソニー創業者の井深大(いぶかまさる)さんは弁理士なんですね。

 あまり関係ないですが、当時の弁理士は今とは比べ物にならないくらい超難関国家資格でした。

 井深大さんがどのような経緯で弁理士になられたのかは分かりませんが、ソニーを創業しながら弁理士って、頭良すぎというか、すごすぎでしょ!と思ってしまいますね。

 それはともかくとしてソニーの知財部といえば僕も何人か知り合いがいますが、知財業界では超絶エリートなイメージです(※たぶん年収も高いです笑)。

 そんなソニー知財部が「「知財部」の枠を超えて新規事業の構想・創造に自発的に参画」といっているということは、これまでの知財活動だけではダメだと考えているということだと思います。

 これまでの知財活動というのは、良い発明を抽出して特許出願を行うことで自社製品やサービスを守る、あるいは必要に応じて自社特許をライバル企業に活用するといった活動です。

 特にソニーの場合はプレイステーションという量産品があるので、他社からの訴訟対策などの仕事が相当、ヘビーなはずですが、そんなソニー知財部でさえ、ある種の焦りがあるという点が面白いと思いました。

 また他社を含めた技術の強み・弱みを理解し、技術の評価を行ったうえで勝ち続けるために押さえるべき技術を知財部からビジネス部門に提案していく点もこれまでの知財部にはなかった活動であり、今後は必要になると思うので理解しておくのが良いですね。

 ここでは紹介しませんが、29ページの富士通、33ページのドイツSIEMENSや35ページのパナソニックなども同様に知財部が主導となってイノベーションを推進するという試みが昨今の知財部の大きな流れになっていると考えています。

マイクロ波化学(大阪大学発のスタートアップ企業)「経営における知的財産戦略事例集」42ページ

 マイクロ波化学は大阪大学発のスタートアップ企業で電子レンジにも使われているマイクロ波の性質に着目し、省エネルギー・コンパクトなモノづくりを実現するテクノロジー・スタートアップです。

 スタートアップのお手本ともいえると思いますが、このような革新的なテクノロジーを軸に事業を行うスタートアップは当然、特許の取得が事業成否の鍵となります。

 このマイクロ波化学は2011年に同社の技術的な核となる基本特許を取得したそうです。

 なお、同社の知財部にはどこかは分かりませんが大手の知財部門の本部長を務めていた方がいたそうで、この方を中心に、さらに弁護士事務所とも連携のうえ、知財戦略を推進してきたようです。

 僕も大企業の知財部員ですが、こういった小さなスタートアップの知財戦略の推進は楽しそうですね(^○^)

 この知財戦略に基づきマイクロ波化学は、パートナーシップを拡大しながら、ビジネスも拡大することができたという事例ですね。

「経営における知的財産戦略事例集」富士フィルム(IPランドスケープを活用)「経営における知的財産戦略事例集」57ページ

 このIPランドスケープも数年前から知財業界の流行りなのかなと思いますが、富士フィルムもこれを活用しているようです。

 富士フィルムの知財部では経営層に対し、このIPランドスケープを活用して自他社の強み・弱みを分析し、より成功確度の高い将来事業領域を抽出・提案しているのが面白いと思いますね。

 これにより知財部が富士フィルムにおけるインテリジェンスの組織として機能することを目指しており、この試みは新しいし、経営層に与える提供価値が大きくて良い活動をしているのかなと感じました。

本記事のまとめ

 以上、「経営における知的財産戦略事例集」の中で僕が勝手に選択した面白い知財戦略を実施している企業(三鷹光器、ソニー、マイクロ波科学、富士フィルム)を説明しました。

 企業内の一組織でいる以上、経営層に役立つ活動をしていくことは当然ですが、これまでの知財部はなかなか経営層にアプローチができていないところが多かったように思います。

 ただ今後はたとえば上記した富士フィルムのような知財部がデフォルトになっていくのかなと思いますし、これができなければ、その知財部は淘汰されていくのかなと思います。

 なので、そうはならないように経営層にとってなくてはならない部署になれるように日々、研鑽を積んでいきましょう!

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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